ANMELDENそれから。レインブラは双鹿、銃姫、リザの話を熱心に聞いて。その様子はまるで新人研修を受ける新人のようだった。
「……やはり、ある程度のカリスマ性は必要なのですね」
「そうね。うち……マザーグースなんかは……自分で言うのは恥ずかしいのだけれど、私の求心力でやっているようなものだから」
「うーん、正直うちもそう。プレイヤーに愛される統治者であることってかなり大きいと思う。……ちなみにリザのところは?」
「うちは、正直人口が増えたのも最近だしアテにはならないかしらぁ。でも、こま目にイベントを開催したりして、プレイヤーが離れない工夫は絶対的に必要よねぇ」
普段和気藹々としているメンツでも、こんな真面目な話ができるのか、という感動と共に、友人と義理とは言え妹が和やかなに話しているというのは大変眼の保養になった。
「ちなみに、最初のプレイヤーの呼び込みってなにをしました?」
そん
そんな会話をしていると、薊の病室のドアがノックされた。薊が軽快に返事をすれば、スライドドアが開いた。そこには、愛鹿たちが立っていて。 愛鹿も姫沙羅も瑠奈も起きている薊を見て、どこかホッとした表情を浮かべて病室に入っていく。 唯一、初対面の悠理だけがドアの後ろにちょこんと隠れていた。勢いで来たのだろう。でも、初対面故にどう接したらいいか分からない。うん、可愛い。 そして、薊と女性陣が話してるのを横目に、悠理に声をかけるために席を立つ。「悠理」「兄さま……感動の再会に私水差してないでしょうか?」 そう眉を下げる悠理に皇は苦笑する。「大丈夫だよ。悠理も薊を助けたんだ。ドヤ顔して、〝貴方を助けましたけど?〟って態度で何食わぬ顔で立ってればいいんだよ」「私、そんな厚顔ではありませんよ」 でも、そんな皇との会話に踏ん切りがついたのか、悠理も病室に一歩足を踏み入れて。「お」 薊が気づく。じゃあ、あとは皇が潤滑油になるだけだ。「俺の義理の妹で、薊を助ける時死ぬほど頑張ってくれたうちの1人だ」 そう皇が言えば、悠理はぺこりと頭を下げた。「遊城……の姓は捨てたので、悠理とお呼びください。兄さまのお友達さんなんですよね?」 そんな悠理の笑みに、薊ははっと笑った。「ああ、一番の大親友の甲斐堂薊だ。こいつの妹っつーことは……俺の妹とも同義だなァ」「同義じゃねーよ、調子に乗るな」 お兄ちゃんポジションは渡しません!そんなことを思いながらツッコんだ。「いや、悠理はなんていうかみんなの妹だから……」 姫沙羅の言葉にびっくりする。え、その共通認識いつ生まれたの?「そうね、義妹さんももう遊城の姓を捨てたのなら……全員の妹と言っても過言ではないわね」 過言だよッ!「悠理、私のことは気軽にお姉さまと
アザカが目覚めて。色々を話そうとするヴィクトの頭をはたいたのは双鹿だった。「まだ安心するには早いわ」「意識がちゃんと体に帰るか確認してから喜びなさぁい。こんなこと前例がないんだから、ちゃんとログアウトできるまで気を抜けないわぁ」 そんな双鹿とリザの促しにより、とりあえず、一旦全員ログアウトすることになるのだった。--------------------------------------------------------------- ———薊と皇のアパート。「っ……!」 AWMからログアウトした皇はガバッ、とベッドの上から起き上がった。起き上がって、即座に電話をかけるためにリムレットを立ち上げようとした瞬間だった。リムレットが着信する。相手は、紅華が紹介してくれた病院。 皇は呼吸が止まりそうな思いになりながら、震える手で応答ボタンを押した。「もしもし」『皇さんの電話であっていますか?私、八東病院のものになります。緊急のご連絡です』「はい」 心臓が、口から出そうだった。この一瞬の間が何秒、何十秒にも、何百秒にも引き延ばされるような感覚。頼む、無事であってくれ。無事で。『……甲斐堂薊さんがお目覚めになりました』--------------------------------------------------------------- 気づいたら走っていた。リムレットをいつ切ったかなんて覚えていない。気づいたら鞄を持って走っていた。駅まで走って、もう終電を終えていることに気づく。 それに気づいて、皇は金額なんて気にせずにタクシーに乗り込んだ。 この時間に病院へ向かっているという事実にタクシー運転手の人もなかなか速度を出してくれていて。 皇は、タクシーの中でそわそわとしながら思い出す。女性陣に連絡していないことに。そして、リムレットでグループメッセージに『薊が
ヴィクトが口を開こうとしたその瞬間だった。 ———パリンッ。 そんなガラスが割れるような音がいたるところからしだす。その音に顔をあげれば、見えない天井がひび割れていて。「不味いな。神器の欠片を俺から譲渡したからワールドが成立しなくなっている」 そんなクロムの声にいち早く声をあげたのは双鹿だった。「それってつまり……脱出しないと不味いってワケよね?」「ああ」 でっすよねー!えーとえーと。「馬鹿ヴィクトぉ。さっさと来た時と同じように道を切り開きなさぁい。文字通り」「お、おう!」 リザに指摘されるまで、その手段を忘れていたのはナイショだ! ヴィクトは大急ぎで、次元渡りの剣で目の前の空間を裂いた。そうすれば、すぱっとまた空間が捲れて。次元渡りの剣がちゃんと機能してくれたことに安堵しながら言うのだ。「早く入ってくれ!俺が殿を務める!」 と言うか、多分ヴィクトが入ったらこの裂け目が閉じてしまう。そして、全員がいそいそと次元の裂け目に落ちて言ったのを確認してヴィクトも中へ飛び込んだ。 アザカの魂である宝石を握りしめて。--------------------------------------------------------------- ———聖ユリア王国・王都の外。「よっと」 次元の裂け目から放り出されるように脱出し、着地をする。ヴィクトが着地したのを見て、銃姫が人数を数えた。「うんうん、全員居るね」 そんな銃姫の安心顔に気を緩ませていると、レインブラが辺りをきょろきょろと見回す。「此処は……どこでしょうか?」 それに釣られてみれば、そこは一面の草原。真緑の草原だ。すると、クロムが周囲を見回して「ふむ」と言った後口を開いた。「此処は王都から少し歩いた
「……剣のにーちゃん……」 口からポロリと零れたのは懐かしい呼称。剣のにーちゃん、そう呼んだヴィクトの顔はいつもより僅かに幼さをこの場に居る全員に感じさせた。 すると、クロムが目を開ける。その瞳にさっきまでの獰猛さはなく、穏やかな雰囲気が漂っていた。「ちょっと恥ずかしいな。俺のことはクロムって呼んでくれ。異界の」 ヴィクトは泣きそうになった。そのヴィクトへの接し方はあの頃からまるで変わっておらず、これが本当の再会なのだということをヴィクトに教えた。「じゃあ、俺のことも……此処ではヴィクトって呼んでくれ」「ああ、ハンドルネームという文化だな」 そう言う知識あるんだ!そんなツッコみがついつい出そうになってしまう。だが、とりあえず、ヴィクトがクロムに手を差し出せば、クロムはそれを取って立ち上がった。 そして、4人が僅かに警戒をしながら近寄ってくる。そんな4人に安心して欲しくてヴィクトはクロムに話を振った。「支配は解けた、ってことでいいんだよな?」「ああ。ヴィクトが立ち切った数字の羅列、あれが俺の魂を支配していたんだ」「そういうことだったの」 そう声をあげたのは双鹿だった。双鹿は言う。「ずっと考えていたわ。単純にこの空間がテクスチャを張るほどの意味のない空間だからコードが剥き出しなのか、それとも意味があってコードが張り巡らされているのか」 双鹿は空を見上げる。黒い空間に無数のコードが泳いでいて。「あれらのコードは繋がっていない。1本1本が独立してる……つまり……」「優秀なブレーンがいるんだね、ヴィクト」 クロムは罪悪感の滲む目で拍手をした。一方ヴィクトはなんで、クロムがそんな表情をしているか分からなくて、双鹿を見た。「あそこに浮いているコード、全てが恐らくクロムさんが今までにAWM内で殺した人間の魂を電子化して縛っている」 そんな双
———謎の電子空間・後方。 双鹿が分析をしている。銃姫とレインブラがすっ飛んでいった。そんな状況で、リザは内心ため息をついていた。(馬鹿ばっかぁ) 多分、双鹿が分析に回ったのはこの空間に影というものが存在しないせいで、なにもできないからだろう。必死に、この部屋がなんなのかを分析している。 まあ、銃姫もレインブラもリザみたいなことをやるような人間じゃないことはなんとなく分かっていたので。(はぁー、私の役目はこれって訳ねぇ) リザは剣を片手に舞いを始める。……ヴィクトたちへのバフ、そして、クロムへのデバフだ。 AWMにおいてバフデバフは数値が変動するようなものではなく、あくまで体感早くなったり遅くなったりするもの。 しかも、厄介なのが持続時間何分とかではなく、踊り手……つまりリザが舞える限りしか続かない。だから、リザは舞い続けなければいけない。勝つまで。(一番キツい役やらされてるわぁ) しかも、多分バフを振られている側は調子いいぐらいの認識だろうことが本当に腹が立った。でも、でも。 だが、いくら味方側にバフを振ったところでクロムの技術でいなされる。それを確認して、リザは肩で息をしながら方針を変える。「ちょぉっと手酷いの行くわよぉっ!」 そう叫んで、舞いを変える。その舞いは究極のデバフの舞、流石にこれを食らえばクロムでも、ヴィクト相手に五分以下になるだろう。 その代わり味方側へのバフがなくなる。だが。(やってみなさぁい!ヴィクトッ!) リザは笑う。ヴィクトなら絶対にやってくれると信じて。--------------------------------------------------------------- ———謎の電子空間・コンソール付近。(リザさんからのバフが途絶えた&hel
落ちていく。空間の裂け目に、入ってきた穴は遠く、というかもう閉じている。ヴィクト以外は緊張した面持ちだ。でも、ヴィクトには不思議と緊張感や恐怖心なかった。強いてこの感覚に名前を付けるなら懐かしさだろうか。 よく見知った親戚の家に行くみたいな感覚。この裂け目に入った当初は温かさすら感じた。だが、落ちていく度に……その温度が少しずつ下がっていき、懐かしさが薄れていく。「みんな!地面だ!」 そして、ヴィクトたちは白い地面に電子コードが漂う空間に放り出された。ただただ空気が冷たく、痛い。 それぞれに受け身を取り、立ち上がる。そして、周囲を見回すのだ。「あれはぁ……」「コンソールかしら?」 そんなリザと双鹿の声にその視線の先を見れば、白いヴィクトの腰ぐらいの高さの石柱があった。「ちょっと待っててくれ、俺が確認してくる」 そう言って、ヴィクトがコンソールに近づく。コンソールは本当に石柱のようで、そして、それを触ろうした瞬間。「ヴィクトッ!」 銃姫の声、そして。背後になにかが着地する音、そして、荒々しい殺気。 ヴィクトが振り返れば、そこにはクロムが居た。もちろん、黒いクロム。 ヴィクトはコンソールに触ろうとする手を引っ込め、次元渡りの剣を構える。「何故……何故……此処、へ、此処」 クロムがゆらゆらと剣を抜く。その額を押さえる様子は、まるで痛む頭を押さえるようで。 やはり、クロムへの支配は完全でないことを知る。「此処へ、此処へ、きてしまっ、た、ら、ぁああああああああああああああああッ!」 ヴィクトが咄嗟に剣でガードするように構えれば、気づいたらクロムの剣を受け止めていた。見えなかった、とても、とても速い剣。 そのクロムの表情は泣いていた。歯を食いしばって、勝手に動く体を否定したくてたまらないのだろう。-------------------------